Novel brainの研究室

物語理論の研究をしています

9.共通項

  

◆キャラクターを生かす三つの共通項

 

  1. 生活空間の共通項
  2. 関係性
  3. 行動軸の共通項

  

キャラクターの人格は別のキャラクターとの相関関係によって表される。

だからこそ、キャラクターとキャラクターの間には共通項があることが大切だ、というお話。

 

 

 

技術的な領域においては三つの共通項が存在し、

それぞれを操ることが求められるが、

まずは共通項とはなにであり、なぜ必要なのかという話から始めたい。

  

 

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◆創作技術における「共通項」とは

 

創作における共通項とは、

「二人のキャラクターが持つ共通の要素」である。

 

現実世界の話で見ても共通の話題がない人物と会話するのは難しい。

創作の世界だってもちろんそうなのだ。

 

たとえば、スクールカーストものを作った際、

カースト上位に位置するギャルっ子と、

さえない主人公が会話するために必要な要素とはなんなのか。

 

お互いに共通の話題もなく、

学校イベントでも同じ活動をしない。

これでは仲良くなれるはずがない。

 

絶対に共通項が必要である。

 

たとえば共通の趣味があったとか、同じ部活に入っただとか、

同じような過去があった・同じような将来の夢があるだとか、

そういう要素が二人をつないでいく。

 

仮にそれは対立しててもいい。

同じ趣味を持つものの、考え方が違うとか。

同じような過去があったけれども、片方は解決してて片方はしてないとか。

 

こうした前提があると、

まったく別の人間を絡ませることが簡単になる。

 

 

そしてもう一つ。こっちが大事。

 

創作における「個性付け」の話。

 

大前提として、キャラクターの個性の8割くらいは

「キャラ同士の会話」で表現される(はずである)。

 

もちろん、「ピンチに陥ったときの行動」や

「物事に対する考え方」も個性ではあるが、

それはどうしてもシリアスなシーンで発揮される。

 

作風を娯楽濃度の高い作品にしたいと思うのであれば、

「シリアス」シーンはもちろん、

「日常」シーンも面白くなければならない。

 

片方のキャラクターに「読書が趣味」と書き、

片方のキャラクターに「スイーツを食べること」と書いたとする。

 

その趣味自体はもしかしたらキャラを深める要素となるのかもしれないが、

じゃあその設定した個性は本編中にこの二人のキャラ同士で

会話になるのだろうか?

 

たびたびキャラクター設定の際に

「趣味」とか「思想」、

「好きなもの・嫌いなもの」を決めるべきだと言われるが、

適当に決めたってそれは、『本編で使えない設定』になりがちである。

 

ヒロインの好きな食べ物を仮に、「ハンバーグ」に設定したとする。

 

じゃあ、そのハンバーグが好きだというシーンは、

本編中のどこに挿入する予定で作った設定なんですか? という疑問が出る。

 

いつか使えるかもしれないから作った。

そういうものもあるだろう。

 

じゃあそのハンバーグが好きだというシーン、どう面白く書く?

誰が、そのハンバーグ好きという設定に対して突っ込みを入れてくれる?

ハンバーグに興味もクソもない主人公が? どう反応する?

舞台が学園であったら? どこでハンバーグを食べるシーンを出す?

ハンバーグを家庭科で作るシーンを入れる?

 

それ本当に本編にいる?

 

なんとなく思っていた人もいると思うが、

本編中で使えない設定は設定ではない。

 

私が信奉する三宅隆太氏も、

本の中で「作った設定は全部使うのが当たり前でしょ」と書いている。

 

これはとどのつまり、「使えない設定なんか作るな」とも取れると思う。

だって、適当に作ってたら「使えない設定」なんて絶対に出てくるからだ。

 

じゃあ、どういう設定を作るのがベターなのか?

この設定を使うためにはどういうキャラクターを絡ませなければならないのか?

という話になったときに、「共通項」が存在するのである。

 

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● 生活空間の共通項

 

 「生活空間の共通項」、つまるところ、

二人のキャラクターがいったいどのような場所で過ごして物語を進行させるのかという話。

 

メインヒロインと主人公に生活共通項が存在しない場合、

彼らが落ち着ける空間が存在しないことになり、

結果的に「面白い会話」をする場面が限られていく。

 

プライベートな空間で出会う場面がなければないほど会話の幅は狭まり、

作った設定が無駄になっていくことになる。

 

個人的にはおよそ一日のうち8時間以上を一緒に過ごせる共通空間が必須であると考える。

一緒に過ごさなくとも、「意識するほど近くにいる」ことが重要。

 

例としては、

 

→同じ教室、同じ部活、同居・同棲、お隣さん、5時間以上いじるネットの友達、お屋敷のメイド・執事

 

より具体的な例を挙げると、『紅』という作品がある。 

 この作品の主人公・真九朗とヒロイン・紫の

「生活空間の共通項」は「同棲」である。 

 

エロマンガ先生』で言えば、 

 メインヒロイン・紗霧は「同居」、

サブヒロイン・山田エルフは「お隣さん」と言える。

 

青春部活ものの多くが「同じ部活」「同じ教室」である。

 

そんなのあって当然だろ? と思うかもしれないが、

意味、効果を自覚的であることは重要である。

 

試しにあえて「生活空間の共通項」を持たない例を考えてみよう。

 

たとえば、同じ職場の女性をヒロインとして据えた現代ファンタジーのライトノベルがあったとする。

 

世界の危機に立ち向かい協力し合う関係にあるが、

『一緒にいられるのは職場だけ』という状態が

どれほどキャラクターの会話の幅を狭めるか、想像してみて欲しい。

 

これが、「実はお隣さんだった」とか、

「主人公がやむを得ぬ事情でヒロインの部屋に住み込むことになった」

という設定を加えた途端、

本編中に職場以外に出会う場面が作れるようになり、

たとえば「ヒロインはハンバーグが好きだった」という設定も

実用可能なレベルに押し上げられる。

 

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 ●関係性

 

「関係性」とは、そのまま二人のキャラクターの関係性のことである。

 

これは同じ生活空間における二人がどのような「立場」にあるのかという話と、

お互いがどのような状態(「属性」)にあるのかという話だ。

 

 ・二人の立場

 

 →主従、依頼・請負、保護・被保護、敵対、秘密共有など

 

この設定は単に「同級生」と言ってしまっても成立してしまうが、

2者の間には優位劣位の基本がある方が会話を転がしやすい(話題や会話の流れでその優位劣位が入れ替わることはあり得る)。

 

例えば、AとBは「同級生」だが、

Aは「いつもBの面倒を見ている優等生(優位)」で

Bは「いつもAに尻拭いをしてもらっている問題児(劣位)」

といった塩梅である。

 

 ・立場に対する二つの属性

 

 友好←→対立

 積極的←→消極的

 

例えば『紅』の真九朗と紫。

彼らは「同居」という「生活空間の共通項」を持っていた。

 

二人は「保護・被保護」の「立場」にあるといえる。

そしてはじめ、彼らは「対立」の「属性」にある。

 

だんだんと「友好」に変わっていくが、

初期の紫は真九朗を認めていないし、真九朗もまた紫に心を許してはいない。

 

彼らの二つめの「属性」は「消極的」である。

お互いがお互いに様子をうかがっているような形で物語は進行し、

事件や新たな出来事が起こるたびに彼らの「属性」は変化していく。

  

なぜこんなものをわざわざ設定するのか?

 

仮に二人の関係が「友好」、「積極的」であった場合、

おそらく「恋がしたい」という紫の願いは早々に開示され、

彼女に「恋」を教える話としてスタートする。

 

「対立」、「積極的」であった場合、

「紫及び真九朗の更生物語」だったかもしれない。

 

「友好」、「消極的」だった場合、

「紫はなぜここに連れてこられた?」ということを追うミステリー系の作品だったかもしれない。

 

と、かなり物語の方向性に変化が起きる。

自分が書きたい二人の関係性が、自分のプロットと合致しているかは吟味する必要がある。

 

先ほど挙げた現代ファンタジーライトノベルの、職場の女性に当てはめてみる。

 

職場の女性を仮に年上の上司にした場合、

まず主人公とヒロインの「立場」は「上司・部下」になる。

 

 

作品の方向性は「世界の危機」と書いたので、

多少シリアスめ方向性にしてみる。

「属性」はどれなら物語になりえるだろうか。 

 

「生活空間の共通項」も揃えるために同じ部屋で生活しているとするなら、

同時に「保護・被保護」の関係でもあるのかもしれない。

 

じゃあ、「友好」なのか、「対立」なのか?

主人公の職場でヒロインは非常に厳しく、

あまり主人公は好きではないかもしれない。保護されたのも状況的に仕方がなかったから。

それなら「対立」である。

 

じゃあ「積極的」なのか「消極的」なのか?

消極的だと関係性が膠着して面白くないかもしれない。

厳しい上司に対して消極的関係性を築くと、主人公のキャラが鬱屈してそうだ。

とりあえず「積極的」にする。

 

よし、せっかくだからハンバーグの設定を使おう。

 

主人公はヒロインに対してなんらかの対抗意識(「対立」)を持っているものの、

現在「保護」されているという状況に対して「積極的」に改善していこうという意思がある。

 

ヒロインとは同居の関係にある。

彼女がハンバーグ好きという設定は冷蔵庫を見ればわかるかもしれないし、

一度作って貰えるかもしれない。

主人公はまず彼女からの待遇をよくするためには胃袋を掴むべきだと考え、

ハンバーグを作って彼女にふるまうとする。

 

が、料理に慣れていない主人公はクソボロに失敗する。マルコゲである。

ヒロインはキレる。キレるが、

ハンバーグが好きなのであれやこれやとハンバーグの作り方を伝授する。

積極性のある関係性なので、これを主人公はちゃんと受け取ろうとする。

 

これでラストのほうでもう一回作って、主人公がおいしいハンバーグを作ってみせれば十分設定を生かしたと言えるだろう。

 

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 ●行動軸の共通項

 

「行動軸の共通項」とは、プロット上でAとBが同じ目的を持つことである。

 

手段や方法がかけ離れていたり思想が離れていたりしてもいいが、

物語に統一感を出すために基本的には同じ目的を持っていたり、

同じ方向を向いてるほうがわかりやすい。

 

例えば、 

 →大会の優勝、事件の解決、同じ境遇・状態からの脱出、秘密の共有など

 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
 

 であれば「妹の秘密を守ること」であるし、

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

 

 であれば、「依頼の解決」である。

 

部活ものであれば廃部の危機という「同じ境遇からの脱出」など。

 

悩んでいるヒロインを主人公が助け出す展開も

基本は「同じ状態からの脱出」と言えるだろう(ヒロインの願いを引き出す過程が必要だが)。

 

では、先ほどの案に戻る。

 

はじめに「世界の危機」に立ち向かう話、みたいなことを描いたので、そうする。

仮に「カイジュウ」が定期的に襲ってくる『パシフィックリム』

 

 のような世界だと設定する。

 

「行動軸の共通項」はもちろん、カイジュウを倒して人々の平穏を守ることだ。

しかし、カイジュウを倒す思想まで同じか? と聞かれれば否だろう。

 

では、ヒロインのほうは「カイジュウを倒すこと」を思想とし、

主人公は「人々を守ること」を思想とする。

こうすると、妙なすれ違いが起こったりする。

 

作戦中にお互いの主張がぶつかりあうかもしれない。

認められないことをどちらかが譲歩することもあるかもしれないし、

認め合う展開になるかもしれない。

 

でも二人とも「カイジュウを倒して、平穏を守る」という「目的」は一致している。

この目的の一致と思想のズレが会話そのものを生み出したり、葛藤を生み出したりする。

 

時たま「メインキャラ同士には対立構造があったほうがいい」 という考え方を捉え違いして、

カイジュウを倒して、平穏を守る」目的を持つ主人公と、

カイジュウも保護すべき生命体のひとつ」という目的を持つヒロインを設定し、

行動軸が真反対を向いているキャラを主人公とヒロインが設定する人がいる。

 

行動軸が真反対を向いているキャラクターを設定するな、とは言わないが、

主人公とヒロインに「行動軸が真反対を向いている」目的を持たせることはおすすめしない。

この二つの方向性の異なる目的は、会話しづらく、プロット上でも絡ませづらい。

 

メインキャラ同士(特に主人公とヒロイン)の会話を面白く描きたいのであれば、

「同じ共通項」を持つことが基本である。

 

もちろん、リスクを理解した上で秘策があるのなら、基本を破ることはありだ。

だがそれは基本をマスターしてからでも遅くはない。

 

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◆共通項を設定するタイミングについて

 

現代ファンタジーのライトノベルの設定に関しては

記事書きながら適当に作ってきたわけだが、

じゃあこの共通項、どのタイミングで決めていくのがいいのか。

 

もちろんキャラクターメイキングの初期の初期段階からやってもいい。 

記事に書いた「ハンバーグ」に関しても記事書きながら適当に考えたのだが、

この発想の初期段階は、

 

・ハンバーグが好きなヒロイン

・世界の危機を守る話

・ヒロインが職場の上司である

 

だけである。

ただまあ、人には書きたい話があるのでそうもいかないことが多い。

 

なので、

 

・物語のセールスポイント、およびやりたいことが決まっている(作風の方向性)

・主人公とヒロイン、およびサブキャラのある程度の初期設定がある

・エンディングイメージが朧気でもいいからある

・プロット作成する前段階である

 

くらいの段階で一度試してみる価値がある。

 

プロットを作成したあとで共通項を作ってしまうと、

結局「プロットに作った設定の入る余地がない」ということになりかねない。

 

もちろんある程度のプロットの方向性は必要だが、

綿密に詰めてしまうとあとから動かせなくなることは注意が必要である。

  

読んだ人の中には、

 

「とりあえず、同じものを好きになればいいのでは?」

 

と思った人もいるかもしれない。

実際、同じものを好きであることは「共通項」であるので、それも間違いではない。

しかし、理解としては浅い。

 

共通項はもっと大きな枠としてとらえる必要がある。

そして、なぜその枠を設定する必要があるのかと言えば、

 

物語上で描写できない設定は作るな!

 

が基本原則であるからだ。

枠を敷いておくと、その中に設定を作ろうという意識が働くため、

作ってみたあとに「あ、この設定、使えないやつだ……」と途方に暮れる無駄が省ける。

 

 

例えば今回作ったカイジュウもの。

ヒロインはハンバーグ好きだけど、

主人公には特にハンバーグ(や料理)に対する設定もプロット上の展開もなかった場合…

 

おそらく作者の脳内だけに存在する裏設定で終わるだろう。

無理に出したとしても特に会話は盛り上がらないし、一回使って終わりの使い捨ての設定になるはずである。

 

 

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◆余談

 

よく共通項の話をするとき

「MF文庫の新人賞を取るなら共通項使え」と私は言う。

 

つまりなんの話をしているかというと、

MF文庫のファンタジーには「決闘」がよく出てくるだが、

これと共通項は関わり合いが深いのである。

 

決闘のシーン、これは二人の人物が

「なにかを賭けて争っている」シーンである。

 

これは、負けると自分の主張が折られることになるわけだが、

決闘することでヒロインと主人公の三つの共通項がほぼすべて決定する。

これは決闘した結果ももちろんだが、決闘しうる二人を設定する、ということにも意味がある。

 

まず「生活空間の共通項」だが、

賭けて戦う以上、負けた側になんらかしらのデメリットが発生する。

 

そうでなくとも決闘する相手なのだから、

多分居場所は近しい人物なのだろう。

 

 

ロクでなし魔術講師と禁忌教典』 

 はそもそも教師と生徒、

同じ学校同じ教室にいる二人であるし、

 

落第騎士の英雄譚』 

 であれば居住権を賭けた決闘が行われる。

 

負けた側は主張を折られるので、同時に「関係性」も決定する。

 

主従であるかもしれないし、

落第騎士の英雄譚』はイッキくんが優しかったので

比較的対等な「ライバル」という「立場」に落ち着いた。

 

「行動軸の共通項」はその他の設定をどうしているかで幅があるが、

ここまでくるとあとはどうとでも設定してしまえる。

 

例えば、勝った側が負けた側になんらかの協力を依頼するのでもいい。

 

ちなみに、『落第騎士の英雄譚』は「七星剣武祭」という武芸大会で優勝することが、

主人公とヒロインの共通の目的になっている。

 

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◆まとめ

 

共通項で決めなければならないこと。

 

1.生活空間の共通項

 二人の人物がともに過ごす空間。ないなら作れ。

 長い時間一緒にいられれば居られるほどベター。

 

2.関係性

 まず立場。上下関係。

 そして属性。友好か対立か。積極的か消極的か。

 

3.行動軸の共通項

 プロット上での同様の目的を持っているか。

 思想や理念は違うとやりやすいかもしれない。

 

 

散文ですが、なにか意見等ありましたらお願いします。

 

(ゴシカン1号)